教師に求められる力の変化ー個別最適化を受けてー

§ はじめに:授業の形の変化

現在学校では、複数人の生徒を対象に、先生が黒板の前で一斉に教えるスタイルが基本でした。
全員が同じ内容を、ある程度歩幅を合わせながら学ぶ。これが「一斉授業」です。

しかし、今はAIやデジタル教材の発展によって、一人ひとりに合わせた学び方(個別最適化学習)が現実的になっています。
生徒によって理解の速さや得意・苦手が違うのは確かです。AIはその違いをデータから読み取り、それぞれに合った課題やヒントを提示できます。

つまり、これからの先生は「全員を同じように教える人」から、
「一人ひとりの学びを支える人」へと変わっていくのです。

§ 一斉授業で求められてきた先生の力

一般的に授業では、先生に次のような力が求められています。

クラスをまとめる力(統率力)

たくさんの生徒を一度に動かすためには、授業のテンポや雰囲気をコントロールする力が必要です。

わかりやすく説明する力

教科書の内容を整理して、限られた時間で伝える「話す力」や「板書の工夫」が重要です。

全体を見渡して合わせる力

授業では、早すぎても遅すぎてもいけません。クラス全体の理解度を読み取り、「全員がついてこられる」ように調整する力が重視されていました。

経験や勘による判断力

授業中に「今は説明を増やすべきか」「もう少し練習を入れるか」を直感で判断する、経験的な感覚も大切です。

このように、これまでの教育では「集団の学びを進める力」が中心でした。
ところがAIが登場した今、これらの力は少しずつ新しい形に変わり始めています

§ 形を変えること

AIが学習を支援する時代になったからといって、先生が不要になるわけではありません。
むしろ「先生にしかできないこと」がより重要になります。

これまでの力が「いらなくなる」のではなく、次のように再定義されていきます。

現在これから
わかりやすく説明する一人ひとりの理解に合わせて「学び方」を設計する
クラスをまとめる学びを共有し合う“場”をつくる
全体に合わせる多様性を生かして学び合いをデザインする
経験や勘が基になる学習データを読み取り、根拠をもって判断する

AIが説明や採点をサポートできるようになれば、先生は「説明のうまさ」よりも、どう学ばせるか・どう支えるかを考える力が求められるようです。

§ これからの先生に求められる新しい力

では、個別最適化の時代に求められる力とは何でしょうか?
教育心理学や教育工学の研究では、次の4つの力が特に注目されています。

メタ認知支援力(学び方を教える力)

AIは答えを出せますが、「どう考えるか」「どう学ぶか」は人間が支える部分です。
先生は、生徒が自分の理解をふり返り、次の学びにつなげるような問いかけや振り返りを設計する力が必要になります。

データを読み取る力(データリテラシー)

学習の履歴や回答データから、生徒の傾向を読み取り、支援の方向を決める力です。
たとえば「時間がかかる問題」「何度もやり直している部分」などを見て、学びのボトルネックを探ります。

倫理的判断力

AIの答えをどこまで信じるか、個人データをどう扱うかといった倫理的判断は人間にしかできません。
「便利だから使う」のではなく、「安全で学びを深めるために使う」という視点が大切です。

人と人をつなぐ力(ファシリテーション)

AIが相手をしてくれる環境では、生徒が孤立しやすくなります。
先生は、生徒どうしの交流や学びの共有を促し、学ぶ意欲を保つ「関係のデザイン」を担います。

これらの力は、単に技術を使いこなすことではなく、「学びの意味を考え、支える力」です。

§ おわりに:AI時代に教師が担うもの

AIが得意なのは「分析」や「自動化」ですが、苦手なのは「感情」「価値」「信頼関係」です。
だからこそ、先生の仕事はこれからもなくなりません。
むしろ、人間だからこそできる教育が求められるようになります。

個別最適化の時代の先生は、

  • 生徒の違いを理解し、
  • 一人ひとりに寄り添い、
  • 学びを共につくる人。

つまり、AIと人が協力して学びを創る「学習のデザイナー」ということができそうです。

参考文献

OECD(2023)『Digital Education Outlook』

UNESCO(2023)『AIと教育に関するガイドライン』

Zimmerman, B. (2000). Self-Regulated Learning and Academic Achievement.

Schön, D. (1983). The Reflective Practitioner.